管理職に昇進したり、新入社員の指導役になると、多くの人が「部下や後輩にどう接したらいいのだろう」と悩みを抱えます。
そんな悩みを解決する方法の1つに「コーチング」があります。
本記事では、私がコーチングを学んで、約10年の社会人生活で、部下や後輩に接するときに実際に使って「これは役立つぞ」と思ったテクニックや考え方を厳選して紹介します。

コーチングを学ぶのにおすすめの書籍
本記事は、前回紹介したコーチングの基本の続きとなります。
「そもそもコーチングってなに?」という方は、前回の記事を読んで頂くことをおすすめします。
前回の記事
チームの方向性を決めるときのテクニック
新しい仕事をスタートしたり、今までに前例のないことにチームでチャレンジするときには、その仕事の「方向性」を決めることが重要です。
「方向性」が定まっていないままに見切り発車すると、やっている途中でチームメイトのやっていることがバラバラになってしまったり、どこまで行けばゴールなのか分からなくなってしまったり、良いことはありません。
そこでそんな大事な「方向性」を決めるときにも使えるコーチングのテクニックをご紹介します。

目標を達成したら、どんな良いことがあるか話し合う。
新しい仕事の目標を設定するとき、多くの人は「会社目線」で考えることが多いです。「コストを30%カットする」「去年の売上比120%」などです。一見、明確な目標のように見えますが、働く社員の個人の視点で考えるとモチベーションが上がるものではありません。
多くの日本企業は、会社や年齢で給料はだいたい決まっており、個人の成果で上下する幅が小さいので「コストをカットしたり売上を上げても、自分の給料が上がるわけではない」と考えてしまうためです。
こう考えてしまうことは日本の社会の仕組み上どうしようもないのが現実です。そこで、部下や後輩のモチベーションを上げる方法をコーチングの視点から探っていきましょう。
それが「目標を達成したら、どんな良いことがあるか話し合う」です。目標を会社の目線でなく、個人の目線に変えて、そして個人にとってどんなメリットがあるかを考えることで、モチベーションが上がります。
例)去年の売上比120%(会社目線)
→達成したら、同期で一番の売上が達成できる(個人目線)
→達成したら、偉業達成者として社内で有名になる(個人目線)
このように、相手個人にとって新しい仕事にチャレンジすると、どんな良いことが待っているかを質問してみましょう。

目標を達成する途中で、どんなスキルが手に入るか話し合う
「目標を達成したら、どんな良いことがあるか話し合う」と一緒に考えると、さらにモチベーションを高めることができます。
先ほどは、目標を達成した後の自分の姿を想像してもらいましたが、これは目標を達成する過程の姿を想像してもらいます。
例)去年の売上比120%(会社目線)
→新規顧客を開拓するスキルが手に入る(個人目線)
→売上に繋がる商品を提案するスキルが手に入る(個人目線)
「目標達成後の姿」と「過程で手に入るスキル」を意識することで、面倒くさい仕事が自分自身がやりたい・達成したい目標へと変化していきます。
目標を本当に達成したいか?と聞く
「目標達成後の姿」と「過程で手に入るスキル」を意識した後にやってほしい、ダメ押しのテクニックです。
それは「目標を本当に達成したいか?」と聞くことです。このとき、相手の目をしっかり見て、声のトーンを1段階落とすと、真剣さが伝わって効果的です。
そして相手が「やります」と答えれば成功です。
人は、無意識に自分の発言と行動を一貫させようとする性質があります。自分でやると言ったことは、やらないと気持ち悪いのです。
これで、相手は目標達成に向けてモチベーション高く動き出してくれるでしょう。
相手の思考を促すテクニック
- 部下が思考停止人間になっている。
- 部下がいつも人の意見を聞きにくる。
- 部下が想定外のことがあるとフリーズする。
そんなお悩みを抱える方に、部下の思考を促すテクニックを紹介します。
チャンクダウン「かたまりをほぐす」
チャンクダウンとは「大きなかたまりを小分けにすること。大きな課題を小さな課題に小分けにすること」です。
相手から、大きく固まった言葉を受け取ったときに、それをほぐすことで相手の思考を促すテクニックです。
漠然としていて大きな課題や悩みや問題でも、時系列で分解したり、原因と結果に分解することで、小さな課題に小分けにすることができます。課題を小分けにすれば、個人で解決できるレベルまで落とし込むことができます。
- 「具体的にはどうだったの」
- 「順番に教えて」
- 「上手くいったのは何のおかげだと思う?」
- 「上手く行かなかったのはなんでだと思う?」
このような言葉を繰り返して、相手に話を続けてもらいます。
ポイントは、決してあなたの考えを言わず、ひたすらに相手に話を続けてもらうことです。
質問された相手は、答えを言わないといけませんから一生懸命に考えます。一生懸命に考えることで、相手の頭の中を整理することができ、思考停止人間になってしまうことを抑えることができます。
現実離れした質問をする
問題に悩んでいる人は、その問題に集中するあまり、視点が固まってしまっている可能性があります。
視点がかたまっていると、有効な解決策が思い浮かばなくなってしまいます。
そこで、そんな固まった視点をほぐすため、現実離れした質問をしてみましょう。
- 「もし、時間がそのときに戻ったらどうするか?」
- 「もし、社長の立場だったらどうするか?」
- 「もし、今なんでも出来るならどうするか?」
一見、くだらない質問のように感じるかもしれません。
しかし、凝り固まった視点をほぐすには大きな刺激を与えなければいけません。
非現実的な質問をすることで、相手の視点を強制的に動かすことができます。すると、今まで思いつきもしなかった新たなアイディアが相手の頭の中で浮かんでくるようになります。
10点満点で今何点か採点してもらう
相手から仕事が完了した報告があり、あなたからすると「ちょっとイマイチだったなぁ」と思ったときに、使えるテクニックです。
あなたが「イマイチだったなぁ」と思っている場合、相手も薄々同じように感じていることが多くあります。
こんなとき、いきなり「イマイチだったよ」と伝えるのは角が立ってしまいますし、相手のやる気を損ねてしまうかもしれません。
そんなときに使えるのが「今終わった仕事は何点だったか?」と聞くことです。
何点だったら採点してもらう例
相手「この仕事終わりました。これが報告書です。」
あなた「お、終わったんだね。ありがとう。」
あなた(ちょっと、イマイチだったなぁ)
あなた「ところで、この仕事10点満点だったら何点だったと思う?」
相手「そうですね、7点くらいですかね?」
あなた「7点か、そしたら足りない3点は何だったと思う?」
相手「目標の日程は達成できましたが、最後にもっと詰められるところが合ったような気がします」
あなた「なるほど、良い分析だね。そしたら、次はどんなことに気を付けたら10点取れると思う?」
相手「仕事をスタートするときに、ゴールのイメージをもう少し練っておけば10点取れると思います。」
いかがでしょうか。あなたから具体的なアドバイスをしなくても、相手の中から解決策を見つけることができました。
このように、採点してもらうことで、足りない部分は何だったのかを考えるのにつながります。

自分のコーチングが合っているか確認する方法
コーチングを勉強して実際に使っていると、こんな悩みを抱えることがあります。
- 自分のコーチングは正しいのか?
- ティーチングになっていないか?
- 相手はどう思っているのか?
こんな悩みを解決する方法を紹介します。
自分の見えないときの相手のことをじっくり考えてみる
コーチングをするには、まず相手を信頼しなくてはいけません。相手を信頼するには、相手のことを考え、思いやる心を持つことが絶対条件です。
そこで、一人になってゆっくりしているときに、相手のことを考えてみましょう。すると、普段の接し方が良かったかを見直すきっかけになります。このとき、普段あなたと接している時だけでなく、あなたから見えないときにどうしているかを考えると、より効果的です。
相手のことを考える例
・子供の頃の夢はなにか?
・家ではどんな表情をしているのか?
・相手はどんなタイプか?行動的なタイプか?アイディア発想が得意なタイプか?分析が得意なタイプか?援助やサポートが得意なタイプか?
このように考えると、普段自分から見えている部分以外を見よう、見つけようと思うようになります。
そうすることで、相手を理解しようとする心が生まれます。
相手を理解しようとする心が生まれると、思いやりが生まれ、思いやりがあるから相手を信頼できるようになります。
コミュニケーションを上から観察する
コーチングをしているときに陥りやすい行動に「コーチングがティーチングになってしまっている」ということがあります。
そんなときは、あなたと相手の会話を上から観察するような質問をしてみましょう。すると、すぐに間違いを訂正することができます。
上から観察する質問の例
あなた「ちょっと私の方が話すぎちゃったなぁ。そう思わない?」
相手「そうですね、ちょっと私も黙りすぎてました」
あなた「やっぱり?そしたら、あなたの考えを聞かせてよ?」
相手「分かりました。私の考えは~」
いかがでしょうか?
コーチング中に、自分のコーチングに疑問を感じたら、上から観察する質問を入れることで、状況を変えることが出来ます。

不満を提案に変えさせる「チャンクアップ」
部下との会話はいつもあなたからスタートで、いつも平和な会話とは限りません。ときには相手から不満を伝えられることがあります。
そんなときに使えるテクニックが「チャンクアップ」です。
チャンクアップは、先に紹介したチャンクダウンの逆です。細かい課題をあつめて大きな課題にまとめることです。
相手から伝えられた小さく具体的な不満を、大きく抽象的なものに言い換えるとどうなるか問いかけてみて下さい。
そして次に、それと今現在の状況の差が何かを問いかけてみてください。
チャンクアップの例
相手「うちのチームは伝達ミスが多い気がします。例えばこの前はお客様からの大事なメールがAさんにしか届いてなくて、それをAさんが忘れてしまっていました。」
相手「他にもBさんが展開しなくてはいけない情報が私のところに届いていませんでした。」
あなた「うん、たしかに良くないね。その2つのミスの原因って、一言で言うとなんだろう?」
相手「そうですね。忘れてしまうのはしょうがないですが、お互いに声をかけ合えていないのが原因ですかね。」
あなた「たしかにそうかもね。でも、うちのチームは外出している人も多いから、いつもお互いを声をかけ合うのは難しいかもね。この差はどうやったら埋められると思う?」
相手「そしたら、毎週月曜日に顔を合わせる機会があれば良いのではないでしょうか?先週の実績や今週の予定を話してもらえば、そこで本人が忘れていることに他の人が気づけるかも」
あなた「なるほど、それは良いアイディアだね。じゃあ、その会議の設定お願いしていい?」
相手「わかりました」
いかがでしょうか?はじめは不満ばかりでしたが、複数の問題の原因を一つにまとめ、現実との差を質問することで解決策が見つかりました。また、さらに相手にその解決策の実行をお願いすることもできました。
チームワークを高めるテクニック
コミュニケーションはいつもあなたと相手の一対一とは限りません。
3人以上の人でのコミュニケーションもありますよね。
そこで、そんな時に使えるコーチングのテクニックを紹介します。
異論反論を許す
会議であなたが部下と議論するとき、どうしてもあなただけが喋ってばかりになってしまうということはないでしょうか?
上司と部下の上下関係で部下が萎縮してしまったり、あなたが優秀なひとであれば、相手は「優秀な○○さんが言ってるから合ってるだどう」と思って発言しなくなってしまいます。
このような会議では、あなたの考え方に寄ったアイディアした思い浮かばず、有効なアイディアが出ないだけでなく、相手は他人事のスタンスになり、チーム力も高まらないという三重苦に陥ってしまいます。
そんな時に使えるのが「異論反論を許す」というテクニックです。
具体的には「間違っているかもしれないからチームのみんなに修正してもらう」というスタンスをとり、それを宣言してしまうことです。
「異論反論を許す」はなるべく会議に冒頭、話し始めに使うのが効果的です。
異論反論を許す例
あなた「これから会議を始めます。会議前に私なりに考えてきたのでそれを紹介します。が、しかし、これは私の個人的な考えで、間違っているとこが多いにあると思います。なので、皆さんにこの間違いを指摘してもらおうと思っています。」
いかがでしょうか?
冒頭でこんなことを言われると、喋ることの心理的なハードルが下がる気がしませんか?
また「指摘してください」と言われてしまうと、相手の話をちゃんと聞いておかないとと思うようになります。
私は実際に会議をするとき、この方法をほぼ毎回使っています。この方法を使う前と後では、やはり後の方が今まで口数の少なかった人からも発言してもらえるようになりました。
立場の違いを際立たせる
これは前回の記事で紹介した「枕詞を使ってプレッシャーを与えない」と近いテクニックです。
前回の記事
部下と会議をするときに、部下にアドバイスという名の命令をしてしまわないように、あなたの発言の冒頭に「これは、マネージャーの立場からの意見だけど…」と付け加えましょう。
すると、あくまでも立場上の一つの意見に過ぎないということを強調することができます。そしてこれは、相手に話を振るときにも活用できます。
「マネージャーとしての意見はこうだけど、営業マンとしての意見はどうかな?」と聞くことで、相手にすんなりと話を振ることができます。
この「立場の違い」をつかうテクニックの良いところは「立場上の意見」ということを強調することによって、発言する人全員があくまでも立場あっての意見というスタンスに立ちやすいので、意見が間違っていてもそれは立場があるから仕方のないことと考えるようになり、間違いを恐れずに意見が言えるようになることです。
また「立場」を際立たせた意見は、無視しづらく黙殺しにくいという強さを持つことができますので、それぞれの立場を尊重した結論にたどり着きやすくなります。
違う視点からの考えが出ると視野が広がるので、チーム全員の視野を広げてチームの力を底上げするのにも有効なテクニックです。
まとめ
管理職に昇進したり、新入社員の指導役になると、多くの人が「部下や後輩にどう接したらいいのだろう」と悩みを抱えます。
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本記事では、私がコーチングを学んで、約10年の社会人生活で、部下や後輩に接するときに実際に使って「これは役立つぞ」と思ったテクニックや考え方を厳選して紹介しました。

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